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【CONNECT #5】 Jun Sasaki(絵描き・イラストレーター)

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エンブレムフロー箱根ではアートをのんびりと観たりつくったりできる場所を提供できたらという思いから、月変わりの展示と、展示しているアーティストご本人主催のワークショップをギャラリー「CONNECT」で催しています。

この連載では、思い掛けない感情や出会いがゆるりと生まれる『CONNECT』にて展示をした作家さんの心のうちを、ほんの少しだけ覗き込みます。

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2022年2月1日(火)から3月2日(水)までの間、エンブレムフロー箱根のギャラリー「CONNECT」で行われた、Jun Sasakiさんの展示「雪の日」。

よく晴れた2月26日(土)、絵描き・イラストレーターのJunさんに約1時間という短い時間の中で、作家になるきっかけとなった出来事や、作家としてうれしかったこと・辛かったことをものすごいスピードで振り返ってもらった。成績がなかなかあがらなかった学生時代、動物を見にアフリカを訪れたときのこと、いまや彼の代表作品である雪の絵の背景にある幼少期の思い出。この記事では彼の35年間の人生をぎゅっと濃縮した内容をお届けする。

▲Jun Sasakiさん。

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Junさんが絵描き・イラストレーターの道を歩みはじめた経緯(いきさつ)を知るうえで、まず最初に「4番になったときの話」を紹介したい。

4番になったときの話

25年ほど時を巻き戻す。当時Junさんは勉強が大の苦手で、小学校から中学校を通して「五段階評価でほとんど1か2しかなかった」という。高校に進学しようと思っても、行ける高校が見つからない。定時制の高校しか受け入れてくれないかもしれないという不安を抱えながら、なんとか進むことができたのは工業高校だった。

Junさんいわく、ガンダムに興味を持ちはじめる高校時代を送るも、成績はいっこうに上がらなかった。

やってきた大学受験。今度は入れる大学がなかなか見つからなかった。諦めかけていたときに、小学生の頃からずっと好きだった絵の専門学校を見つけ、無事合格した。

2年間かけて絵とデザインにまつわるさまざまな授業を受けた末、卒業制作には「ブレーメンの音楽隊」をもとに自身で一から絵本をつくることに決めた。制作物を提出し成績が発表されると、なんと学年で4番目にいい成績だった。

「人生ではじめて過去最高の成績をとったんですよ。4番って中途半端ですけど、こんな俺でもとれるんだ!ってすごく自信がついたんです。そこで時間がかかっても、絵でがんばっていこうと決めました」

作家として生きていくうえでは欠かせなかった「4番になった」という思い出を振り返りながら、「うれしかったですね」という言葉がJunさんの口からこぼれる。

20代前半、動物好きが高じてアフリカへ

卒業後、Junさんの絵に登場するのはひたすら動物だった。

Junさんは幼いころから動物が大好きで、20代の頃は1日中歩きまわっても疲れない靴を履き、カバンに画材を詰め込んで動物園に向かい、開園から閉園までずっと園内を歩き回っていたという。

「象コーナーで1時間描いて、その次にキリンコーナーで1時間描く、なんてことをしていましたね(笑)」

当時は自分の目で動物を見たいという思いが強く、動物園にとどまらずアフリカまではるばる足を運んだこともあった。

「23歳くらいのときにケニアに行って、25歳くらいのときにルワンダに行ったんです。ケニアでは、漠然と動物が見たいということから『じゃあ、ケニアに行こう!』となりました(笑)。アフリカゾウ、キリン、サイ、ライオンはケニアで見ましたね」

▲ケニアのアンボセリ国立公園でJunさんが見たアフリカゾウの群れ。

「次も場所はまたアフリカがいいなと思ってたんです。でもまだ見てない動物を見たいなと思って。ゴリラが見れることがわかって、ルワンダを選びました。『まだ見てないからちょっと行ってみよう!』って(笑)」

▲ルワンダのヴォルカン国立公園でJunさんが見たマウンテンゴリラ。

圧倒的なフットワークの軽さで動物を追い求めた20代前半。アフリカに行く目的としては「動物を絵にしたい」というよりも「動物を自分の目で見たい」という思いのほうが強かったそうで、帰国後に小さな斑点をいくつも並べて絵を完成させる「点描」という技法で、現地で見た動物を思い出しながら、1カ月ほどかけて絵を仕上げていったという。

▲Junさんが点描で仕上げたゾウのペインティング。2009年から2013年までJunさんは主に点描のペインティングをしていた。

▲Junさんがドローイング(素描)という技法で描いたゾウ。ドローイングの作品は、2011年から今に至るまで制作を続けている。

▲Junさんがペインティングの際にもドローイングの際にも使う画材。

個展に行く電車賃がなくなる

好きなことを素直に追いかける素敵な人生にも聞こえるが、ちょうどこの頃、Junさんは絵描きとして生計を立てていくむずかしさも痛感していた。具体的には27歳のとき、預金が底をついた。

「自分の個展に行く電車賃もなくなっちゃったんですよ。個展に行く当日に漫画とゲームを古本屋さんで売って、電車賃を稼いでいました」

Junさんは苦笑いを浮かべる。

その後はいち早くこの状況から抜け出そうと、グラフィックデザインの派遣会社に登録し、イラストレーターとして仕事をもらうために出版社に営業の電話をかけはじめたという。

「コンビニでバイトするよりは、自分の絵でなんとかがんばっていきたいというのがあったんです。そしたらイラストレーターの友達に『お前、イラストレーターなら営業かけろ!』と喝を入れられて。それで僕も『はい!』ってなりました(笑)。

そこからは本屋さんに行って、『この雑誌は結構イラストが使われてる!』というのを見て、最終的に40社くらいに電話かメールで連絡しました。

営業電話なんてもういやで、いやで。緊張するし、恥ずかしいし、どもっちゃったりしますし。でも崖っぷちになると、結構人間なんとでもなるみたいで(笑)。死にやしないし、修行だと思って電話し続けました。そこから仕事につながったのは2社でしたが、自然と口コミなのか、お仕事がちょこちょこ入ってきたんです」

このときを「暗黒時代」と呼ぶJunさんが転機を迎えたのは2018年。32歳のときだった。

「吉祥寺のCLOSETというギャラリーで個展をやったんです。そしたら作品が半分くらい売れたんです。メインにしていた絵も売れて、すごく手応えを感じました。これ、いけるかも!と思った瞬間でした(笑)」

4番になった専門学生時代ぶりに込み上げてきた「いけるかも」という感覚。

この個展ではちょうど自分の絵も売れ、同時に営業電話のおかげでイラストレーターとしても仕事の依頼が入りはじめており、卒業してからずっと目指してきた「絵描きでありながらイラストレーターでもある形」に一歩近づけたような感覚を覚えたとJunさんは振り返る。

▲JunさんのギャラリーCLOSETでの個展「森」。

雪の絵が生まれる

今回の展示でも飾られた雪の絵が少しずつ個展に姿を現すようになったのは、CLOSETでの個展の少し前だった。正式にいうと、2014年に奥沢のギャラリー澄光(ちょうこう)で行われた「赤い女の子とカモシカ 佐々木淳 個展」でデビューを果たしている。雪の絵が誕生したのは、絵描きとしての方向性を見直していたときのことだったという。

▲ギャラリー澄光で行われたJunさんの個展「赤い女の子とカモシカ 」より。

「点描で描く動物は、完成まで1カ月くらいかかっていたんです。1カ月に1枚しか描かなかったら、その絵を数十万円ほどで売らないと絵描きとしてはとてもじゃないけど生きていけない。そうとわかってからは、同じ画材を使いつつも、違う描き方を模索しはじめました」

そこでふと思い出したのは、小学3年生のときに家族と行った群馬県嬬恋村(つまごいむら)でのスキー旅行だった。稀にしか雪が見られない東京で生まれ育ったJunさんの記憶には、20年近くも前に見た、辺り一面の雪景色がとても鮮明に残っていた。

「東京の雪ってべちゃべちゃしてるし、積もってもすぐに消えちゃうじゃないですか。でも嬬恋村に行ったときには足が膝くらいまでズボズボズボッ!って埋まったのを覚えています。あと、雪がさらさらしていて、雪合戦をしようと思ったら、全然雪を丸めることができなかったんです。そういうことにもびっくりしたことをこのとき思い出しましたね。

それで『冬の絵、描いてみよう!』ってなったら、気分がどれほど乗っているかにもよりますが、1日に1枚描けることがわかったんです」

1作品にかかっていた制作時間を1カ月から1日に短縮してみると、この制作方法が自分に合っていることに気づいた。

「1カ月かけてアフリカゾウを描くとなると、僕にとっては絵のレベルアップがしにくかったんです。僕はどんどん何枚も何枚も描くほうが、向いているんじゃないかという思いがありました」

そうしてJunさんはスキー旅行の思い出の引き出しを何度も開けながら、35歳を迎えた今も、雪の絵を描き続けている。

箱根初雪の日にJunさん、現る

Junさんのエンブレムフローでの展示「雪の日」が決まったのは、奇遇にも箱根でこの冬はじめて雪が降った日だった。

その日、Junさんはエンブレムフローで展示をすることは特に考えておらず、2022年1月に行われていた赤平千津子さんの展示を見ることを目的に、エンブレムフローに遊びに来ていた。

一方、すでに赤平さんから「私と夫が大好きな作家さんのJunさん、箱根で雪が降りそうな2月に、展示どうですか」と話を受けていたエンブレムフローの総支配人Ryutaは、「ぜひ実現したい!」という思いから、その場でJunさんに話を持ちかけた。開催はその日に決まった。

▲Junさんの展示には赤平さんの植物が添えられた。

「ちょうど2月は空いていたんです。本当は静岡でイベント出展しようか迷っていたのですが、やめたんです。やめたのもご縁なのかな、と勝手に感じていて。それとエンブレムでお声がけいただいた日にたまたま箱根で雪が降っていたので、こんなタイミングあるんだと思いました。

僕もここまで急に展示を決めるのははじめてだったので、すごくびっくりしましたけど、何よりエンブレムのスタッフのみなさんが温かくて、展示していてすごく楽しいです」

通常、展示を行うときはテーマを決めて新作をつくるというJunさんだが、今回は急遽決まったこともあり、これまで描いてきた雪の絵を中心とした展示になった。

ここ2、3年でJunさんが重きを置くようになった余白が印象的な絵も、館内に足を踏み入れるとすぐ視界に入る壁に飾られた。

▲ 「余白の海」(左)「余白を追いかけて」(右)赤いコートを着た女の子は、小学3年生の頃の自分に置き換えて描いたのだとJunさんはいう。

「余白も当然絵の一部だよなぁ、と最近思っていて。そこをきれいに生かしたいというのがここ2、3年で出てきました。あえて描かないことですね。一応白く塗っているので、描いてはいるのですが……。

基本的にどの絵も白い下地がうっすら残るように塗っているんですが、その絵をひっくり返してみると意外とおもしろいテクスチャーが生まれたりするんです。ここのザラザラした感じが生かせるかもとか。それをまたベースにはじめたりしますね」

Junさんの作品やグッズと溶け合うように調和する棚や机は、実は全てJunさんの私物の古道具。趣味の古道具巡りの際に集めてきたものだとJunさんは微笑みながら教えてくれた。

時を経てJunさんの手に渡った古道具の上には、Junさんが10年ほどの年月をかけてちょこちょこ作り続けてきたグッズがずらりと並べられた。Junさんも、「僕の全力です!(笑)」と声を張る。

▲ Junさんがキャリアの初期につくりはじめた、レターセット。封筒づくりはほとんど自分の手でしている。機械に任せるのと比べると効率的ではないかもと笑いながらも、自分の手で作ることが好きで、ついやってしまうのだと教えてくれた。

Junさんの今後

今回の展示を振り返りながら、「今回展示をやらせてもらって、勝手ですけど次につながるんじゃないかなって、漠然と思っていて」とJunさんは話し出す。

「いろんなギャラリーでやってきましたけど、こんなにも親身に接してくれたのがとにかくうれしくて。エンブレムのみなさんは絵のこともちゃんと聞いてくれたりして。経験上ですが、このような雰囲気のギャラリーで展示をすると、1、2年が経ったタイミングで『絵を買いたいです!』『今度お店開くので、お店の絵描いてくれませんか』と声が掛かったり、次につながることが多い気がしていて。

だから今回も急でしたけど、僕はもう『やっちゃえ!』『見切り発車、いけー!』みたいなスタンスでいきました(笑)。それでこれまで痛い目も見ているし、今後も痛い目を見るかもしれないですけど。でも僕は割とフィーリングを大事にしていますね」

波が来たら、逆らわずに乗っかっていく。そんな積極性とチャレンジ精神あふれる姿勢を崩すことなく、今後も雪の絵を描き続けながら、グッズをつくり続けていきたいという。特に今回はじめて挑戦した缶づくりは、今後種類を増やしていきたいと考えているのだとか。


「これまではどうしても紙もののグッズが多かったので、素材が違うものでつくりたくて、浅草橋にある加藤製作所の職人さんたちとはじめての缶をつくりました。僕自身手作りのものが好きなので、機械でガッチャンコではなく、職人がブリキ板からつくるところに惹かれて、加藤製作所さんに頼んだんです。今年のどこかで新作をつくりたいという話もしています。年に1回は作れたらいいですね」

▲展示中はJunさんの缶に大磯の三日月パウンドさんのサブレクッキーや茅ヶ崎のさくら食堂さんのチョコチップクッキーが詰められ、販売された。

困難に直面しても目を背けたりはせず、絵描き、そしてイラストレーターとしての道を貫けるよう一歩、また一歩と前に進んでいくJunさんの姿には、つい感化されてしまう人も少なくないだろう。常に温かな雰囲気をまとうJunさんの今後の展示や、新たなグッズについては彼のInstagramから報告を待とう。

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Jun Sasaki(URL

1986年、東京生まれ。山脇美術専門学院ビジュアルデザイン科卒。インクとペンを使い動物や人などを描く。動物と冬が好き。