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CONNECT #7 Kanna Koizumi (Kardemumma Store)

2022年6月3日(金)から7月3日(日)までの間、エンブレムフロー箱根のギャラリースペースで展示をしてくださるのは、切り絵とテキスタイルデザインを主な表現方法とするアーティスト、Kanna Koizumiさん。当館からは車で約1時間弱の場所にある小田原を拠点に活動している方である。

Kannaさんを語るに欠かせない土地として、フィンランドが挙げられる。日本からは飛行機で11時間ほど離れた北欧の国に、当時高校3年生だったKannaさんは不思議と惹かれはじめ、留学したい思いを少しずつ募らせていった。

その思いが見事叶ったのは、それから4年が経った2020年1月。当時Kannaさんがテキスタイルデザインを専攻していた短期大学の協定校が奇遇にもフィンランドにあったのだ。

コロナウイルスという単語がちょうどニュースに姿を現し始めたころに、3カ月ほどのときを過ごしたフィンランドでは、どのような発見があったのだろう。今の彼女と彼女の作品に結びつくあらゆる出来事について聞いてみた。

切り絵のはじまり

まず彼女の作品の多くを占める切り絵は、日記代わりとして、フィンランドではじめたものである。

イラストを添える日記のつけかたに憧れを抱いていたのもそうだが、楽しく目新しい毎日を写真ではない形で残したいと当時強く感じ、しっくりくる表現方法を探していたことも大きい。そんななか、たまたま足を運んだフィンランドの無印良品で、柚木沙弥郎(ゆのき・さみろう)さんの型染めの作品を目にした。

そのときひらめいたのが、日本の伝統的な「型染め」と、マリメッコをはじめフィンランドで親しまれている「シルクスクリーン」を組み合わせたらおもしろいのではないか、ということ。

「そうすれば、フィンランドと日本を融合できるのではないか!と思ったんです」とKannaさん。

型染めの技法を取り入れれば、日本人としてのエッセンスも作品に溶け込ませることができる。型染めのように手で型を切り出すことを想像していたら、「日記も切り絵がいいのでは」という考えにいたり、毎日何か1個つくると決めて、切り絵の作品を徐々に増やしていったという。

身の回りにあるものでアートをつくる

切り絵がサイドプロジェクトとして進むなか、学校ではテキスタイルデザインを学んでいたKannaさん。その際に心にスッと入った表現方法として、身の回りのものを使う、という点がある。

何せフィンランドの教授たちは、すでにあるものを使うよう提案することが多かったそう。たとえばシルクスクリーン用の布には、ゴミ処理場のリサイクルショップにあるシーツなどを使ってみたらどうだ、と勧められることもあったという。

「決められたものを完璧にそろえてからでないとはじめられない」というような考えに少し窮屈さを感じていた彼女にとって、「まずは身の回りにある、使えそうなもので制作してみる」というフィンランド人の手法には、ある種の心地良さを感じたそう。

「シルクスクリーンをするときも、本来なら特殊な機械が必要ですが、彼らは『版さえ作ればできるじゃない』というシンプルな考え方でした。アートを作ることは特別な何かという位置付けではなく、日常生活にすごく馴染んでいました」

以降、Kannaさんは前述の型染めのように、思いついたデザインを切り出して版をつくり、身近な場所で見つけた布にデザインを落とし込むようになった。日記代わりの切り絵を作成する際にも、学校の図書館に置いてあるフライヤーやフリーペーパーなどを大いに活用した。

▲身の回りで見つけたとは思えないほど色合い豊かな紙の組み合わせ

肩肘張らず、身の回りにあるもので表現する姿勢はもちろん、自分の軸をしっかりと持つフィンランドの人々の生き方にも、Kannaさんは感化されたという。

というのも、学校に行けば上手か下手かで評価されてしまうことが多いなかで、それまでKannaさんは周りと比べることも少なくなかった。一方、フィンランドでは上手い下手よりも自分がつくったものがなぜいいのかを、いかに相手に伝えられるかが重要視されていた。その着眼点にはしみじみと共感し、今まで気にしていた外の視線から距離を置き、自分の内側に目を向けるようになったという。

帰国後の制作

新たな発見と学びが詰まった留学期間を経て、フィンランドを離れたくない気持ちをこらえながら日本に戻ってきたKannaさん。ただフィンランドで得た気づきは、日本での生活に今でも影響を与え続けているよう。

たとえば前述のように外から内にマインドを向けることで、住み慣れた小田原の景色も少し違うように見えてきたそう。

「実は私の身の回りはすごく豊かで、いろんなモノやコトで溢れていると俯瞰して見ることができるようになりました。たとえば風に揺れる木や葉っぱのかさかさする音。自然の音を聞くだけで豊かだと感じられることに気づきました」

そんなKannaさんが自然と作品に反映していったのは、日常やすぐそばにある自然だった。

彼女のInstagramを覗いてみると、花や人参のすりおろし器、ヤカンや猫……毎日の生活で目にするようなモノが、やわらかい色合いで切り抜かれている。それら制作物は、彼女が卒業制作のために作った、架空の店のコンセプトと強く結びついているという。

「日々のなにげない生活に遊びと発見を。毎日見ているあのカタチ。ちょっと気になるあのイロ。些細なことをヒントにデザインをする旅をしています」(Kannaさんが生み出した架空の店、Kardemumma storeのコンセプト)

ちなみにInstagramのアカウント名であるKardemumma store(カルデムンマ《=フィンランド語でカルダモン、Kannaさんが大好きなスパイスだそう》 ストア)は、その架空の店の名前である。

誰かの心に余白をつくりたい

エンブレムフロー箱根での展示は、人生で3回目の展示となる。「heinä ja kukka puu ja metsä(へイナ・ヤ・クッカ・プー・ヤ・メッツァ) クサ ト ハナ キ ト モリ」の展示名にもあるように、自然に焦点を当てたものになる予定だ。息抜きをしに箱根を訪れた人たちの心のなかに、少しでも余白が生まれたらいい。そんな気持ちを胸に、制作を進めてきたそう。

Kannaさん自身もやらないといけないことに追われ、息をするのも忘れてしまいそうになる瞬間が時折あるという。だからこそ「自分が本当に大事にしたいことは何か」を考えられるような、心の余白がつくれる展示にできたらうれしいと彼女は語る。

制作に使った紙も、フィンランドで制作していたときのように、身の回りのものが多い。たとえば送られてきた荷物に使われていた緩衝材の紙や、紙袋、包装紙……作品と合えばこのような素材も積極的に取り入れるという。

やらないといけないことをせかせかと片付けるだけの日々が続いてしまうと、つい周りの景色に目を向けることを忘れてしまう。Kannaさんが切り絵とテキスタイルで作り上げる自然の世界を見つめることで、ほっと一息ついてみてはどうだろう。ぐるりと展示を見たあとには、大事な何かを見つけるための余白が、心にできていることに気づくかもしれない。

■ 「heinä ja kukka puu ja metsä クサ ト ハナ キ ト モリ」

展示期間:2022年6月3日(金)-7月3日(日) | 場所:Emblem Flow Hakone Gallery (1F) | 開廊時間:7:00-22:00 | ※宿泊されていない方は上記の開廊時間であれば、ご自由にお立ち寄りいただけます。| ※毎週末開催予定のワークショップの詳細については、Emblem Flow HakoneのInstagramをご確認ください。

■ Kanna KoizumiInstagram

1998年ロンドン生まれ、小田原育ち。幼少期に踊りを習い、衣装や小道具を作る日々から”作ること”が好きになる。現在はテキスタイルと切り絵を主に制作。