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CONNECT #12 サユリ・ミナガワ(イラストレーター)

2022年9月2日(金)より当館のギャラリーを塗り替えてくれるのは、イラストレーターのサユリ・ミナガワさん。日本人でありながら高校を卒業するまでは家族と自然豊かなノルウェーで暮らしていたという珍しいバックグラウンドの持ち主である。彼女のこれまでのアートと、作品と深くつながる幼少期のこと、今回の個展のことについて話を聞いた。

おてんばなキミコ

サユリさんが会社勤めとさようならをし、手に職をと絵を描くことを考えはじめたのは2016年のこと。まずは趣味として何か描いてみよう、と楽しさ重視の気持ちから生まれたのが、アイコニックなオカッパヘアに黄色い顔をした「キミコ」という少女だ。

サユリさんのインスタグラムより

キミコはマイペースでおてんばな癒しキャラ。おにぎり山の上で梅干しサンセットを眺めていたり、抹茶風呂に浸かっていたりと見慣れた食べ物がサユリさんの世界ではキミコの居場所に変わっている。思わずニヤけてしまうキミコが映る作品は、サユリさんが小さいころの自分をイメージしながら描き上げたのだという。

「小さいころは裸足で自然を駆けまわるような、おてんばな田舎娘でした(笑)。家の外には日本だと一軒家が6軒くらい建てられそうな広い庭があって、とにかくそこで遊んでいることが多かったです」

▲サユリさんの実家の庭。庭を駆け回ってはトランポリンのうえを飛び跳ねたりして遊んでいた

ただ、当時自然のなかで走り回っていた思い出をそのまま作品に反映させているというよりかは、そのとき感じたことを絵として表現していくことのほうが多いというサユリさん。

▲現実世界ではお箸に乗ることはできないけれど、この作品を見ると、アクティブにいろんな遊びを生み出していたのだろうかと思わず想像がふくらんでしまう

絵1枚からストーリーが想像できるような作品にすることは、制作するうえで何よりも大切にしていることだというサユリさん。そして想像をふくらますうえでヒントのような役割を果たすのが、彼女の作品の絶妙なネーミング。

たとえば過去の個展で展示された以下の作品のタイトルは「げいじゅつかんしょう」だ。

これがカエルの思う芸術かぁ、と想像をふくらませているとどんどんと楽しい気持ちがふくらんでいく。

▲こちらは「コケのおふとん」

動物に遭遇する確率が高かった

サユリさんのインスタグラムのフィードを見てみると、動物の登場回数が多いことに気づく人も少なくないかもしれない。その理由も、どうやら彼女の幼少期の思い出とつながっているようだ。

戸建が6軒は建つという庭は動物たちの通り道で、鹿やウサギ、鳥やリスなど、外に行けば動物たちが「ただそこにいた」という。

庭に出ては遠目で動物たちを眺めて、家のなかに入ると懲りずに(?)シルバニアファミリーを取り出しミニチュアの動物ととにかくよく遊んだという彼女。

そんなサユリさんの幼少期は都会暮らしの人からすれば、本物かフィギュアかは問わず、動物の登場率高めといえるかもしれない。

サユリさんの作品に現れる動物たちが人間と、あるいはほかの動物と、はたまた植物と楽しそうに交わっている光景は、「小さい頃の自分が妄想していたことを妄想しながら描いています」とサユリさん。

シルバニアファミリーの影響なのだろうか。彼女にとって身近な存在であった動物たちが、現実世界ではしえないことまでしてしまうところにはどうしても心をつかまれてしまう。

インスタグラムに投稿されていた食卓につく犬と猫。キャプションは「Cat invites dog home (訳:猫、自宅に犬招く)」

自然を感じた瞬間が詰め込まれた展示

大自然を裸足で走り回り、動物と共存しながら育ったサユリさん。エンブレムフロー箱根での展示では、箱根という山々に囲まれた地にあわせて、サユリさんがこれまで自然を感じたときの思い出が作品となり展示される。

▲サユリさんが指の間に草が通る感覚を思い出しながら描いた作品

庭で遊ぶのが常だったというサユリさんだが、お出かけをするときもすぐそばの森や湖など、大自然に飛び込むことが多かった。人生の大部分を畑仕事に費やしてきたという父親についていき、森でおいしいキノコをとったり、母親が握ったおにぎりを食べながら湖で家族と釣りをしたり……。自然でのエピソードは尽きることがない。

彼女が自然を感じたさまざまな瞬間の一部が、今回の展示では楽しめる。

▲サユリさんの庭によく出没していたウサギ。今回の個展、「feeling nature」より

最後に今後作品に登場させていきたいことについて聞いてみると「心の動き」という言葉が出てきた。これまで多く登場してきた自然や動物にはとくにこだわらず、見ている側が少し立ち止まって考えてしまうような、さまざまな感情を絵で表現していけたらいいと語る。

作品のテーマがシフトするに連れて、ノルウェーの自然が描かれる作品は減っていってしまうかもしれない。そう勝手に推測しては寂しい気持ちにもなるが、彼女が今後どのように心の動きを絵として表現するのだろうとわくわくが込み上げてくるのもたしかな感情だ。

▲サユリさんが、心の動きを表現しようと過去に制作した作品。

まずは今回の個展でサユリさんがかつて感じた自然の世界に飛び込み、彼女の世界に触れてみてほしい。

■サユリ・ミナガワInstagram / Portfolio / Twitter

ノルウェー生まれ、東京在住のイラストレーター。主にパッケージデザインやWEB 媒体のイラストを手掛ける。 1枚の絵からストーリーを想像できる作品作りを心がけている。