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CONNECT #11 大前葉子(絵描き)

2022年7月30日(土)から8月30日(火)までの間、エンブレムフロー箱根のギャラリーで展示をしていただくのは、大前葉子(おおまえ・ようこ)さん。いきなりの感想になってしまうが、彼女と話していくなかで、あらためて直感に従うことの大切さについて考えさせられた。

何せ彼女は直感やインスピレーションに身を任せながら、人生の果てしなく大きな疑問と向き合おうとしてきた絵描きである。彼女がキャンバスに描く一見複雑ながらも不思議と心を穏やかにしてくれるさまざまな形や模様は、一体彼女のどんな考えとリンクしているのだろうか。彼女の独特な制作方法とあわせて掘り下げてみた。

勝手に手が動き出すまで待つ

小田原生まれ、小田原育ちの絵描き、大前葉子さん。ハキハキと愉快な話し方をされる方だ。

彼女のインスタグラムのアカウントを見ると、ある日付が彼女のプロフィールに記してある。1994年5月13日。今から28年ほど前だ。それは大前さんがアートを本格的にはじめた記念すべき1日目。その日を振り返りながら大前さんはこう話す。

「その日に私はスケッチブックを広げて、手が動くのを待っていました」

待っていた……。ここでハテナが浮かぶ人もいるかもしれない。

どうやら何を描こうかと考えて、考えて、ようやく手を動かすのではなく、自分の意思とはかけ離れたところで手が勝手に動き出すまでは描かない!ということをこの日に試みたらしいのだ。

「普通だったら猫ってどんな見た目だったっけ?と考えて、思考がダダダっと走り出すじゃないですか。でも私は考えないんです。描きたいものを特定したりもしません。手が動く方向に身を任せて絵を描くんです」

このように自分自身と絵を描く手がある意味で分裂しながら絵を作り上げる手法は、「自動書記アート」と言われているそう。

大前さんはこの手法を取り入れた絵本に出会い、静かな衝撃を覚えたと振り返る。自分も試してみようとスケッチブックを広げたのが、1994年5月13日だったのである。

「待っていたら、なんとなく手がひょろひょろと動きはじめたんです。任せるままに描いていたらだんだん楽しくなってきちゃって(笑)、ロックとかワルツとかクラシックとかが頭の中で流れ出して。

途中でふと『さっきの線のほうがきれいだったな〜』なんて思ったら、自分の顔がすねた顔(口をとんがらす)になったのでびっくりして、それをなだめるように『うそうそ、この線もきれいだよ〜』って思い直したら今度は『やった〜!』ってうれしい表情になったんです。私、頭やばくなっちゃったなって思いました(笑)」

壮大な疑問たちと肉眼では見えない世界

大前さんが楽しくもやや不思議な体験をした1994年5月13日。その日の夜は眠れないほどの恐怖に陥ったというが、すぐにその恐怖感は消え、いつの間にか彼女はこの制作方法の虜になっていた。それから今に至るまで30年近く、この手法で作品づくりをしている。

出来上がった作品には見たことのない生き物が登場することもあれば、いくつもの線や形により複雑な世界が作り上げられていたりもする。どれもこの世では見たことのないものや景色ばかりで、眺めていると未知の世界に飛んでいきそうな気持ちにもなる。

作品を描くときに思考は置き去りにするという大前さんだが、普段からの関心が作品とリンクする部分はあるのだろうか。

「『自分の存在ってなんだろう』とか、小学生のころは『生きていて申し訳ないな』とか、そんなことを漠然と思っていました。『宇宙ってなんだろう』『生きてるってなんだろう』『正しいってなんだろう』って、結構悩んでいたんです。でもそんなことは誰にも話せないし、聞いたところで答えもないですし(笑)。そういう壮大なよくわからないことの答えがほしいから描いているのかな、と思います。もしかしたら自分の漠然とした考えの答えのようなものが描かれているのかな、と思うこともあります」

意識的に探求しているわけではないものの、手を動かしていると膨大な疑問に対するヒントが浮かび上がってくる。そんな感覚は、聞いていて興味深い。そのほかにも、作品を作っていくなかで見えてきたことがあるという。

「肉眼では見えない世界を風景として描いている感覚もあるんです」

肉眼では見えない世界。

「肉眼で見える世界って、もうごくごく一部でしかないと思うんです。なので、見えないここのところ(目の前にある空間を指す)にもちっちゃい人とかが暮らしているかもしれない。ちっちゃすぎて見えないミクロの世界、大きすぎて私たちでは把握できないマクロな世界、そんな世界がたくさんあると私は思っています」

大前さんの作品によく登場する無数の点も、肉眼で見えない世界とつながっているようだ。

「科学的なところでいうと、すべての物体は素粒子でできていると言われていますよね。私たちもたくさんのつぶつぶがぎゅっとなってできていて、私たちの目の前にも、見えないけれど実はたくさんのつぶつぶがある。

たとえば密度が薄いと蒸気って見えないじゃないですか。そんな感じなんじゃないかなと思うんです。全部つぶつぶでできている、私はそう感じています」

▲作品づくりにおいて描き心地、触り心地をとにかく重要視するという大前さんは、ぷっくり丸みを帯びた点を描くうえで3D絵の具を愛用しているそう

宇宙人は自分が認識していない自分

そんな思いを胸にキャンバスを埋める大前さんがエンブレムフロー箱根で開催してくださるのは、大きな作品(180cm × 450cm)を含む新作の展示と、館内全体を使った謎解き企画。謎解き企画では、大前さんが館内に設置する大小さまざまな宇宙人を探しながら、謎を解いていく。

ここで「なぜ宇宙人?」ということが気になり、質問を投げかけてみた。

「もとはというと、宇宙が大好きで」大前さんは話し出す。

「見えない世界というんですかね。それは私のなかでは確固としてあるもので、それをわかりやすく具現化するとしたら宇宙人かな、と思っているんです」

大前さんは続ける。

「たとえば理屈じゃないけど気になることってあるじゃないですか。『なんかわからないけど、あっちにいきたいな』とか、野生的感覚というんでしょうか。それは私の中では、肉体の自分じゃない自分が『こうしたほうがいいよ』と言っているようなイメージなんです。自分が認識していない自分というか。それを擬人化したら宇宙人なのかなと思ったりしています。

というのも、人間の脳って5-10%程度しか使っていないとよくいわれているそうです。それでいうと、自分が把握しているところはほんのちょびっとでしかないのだと思います。残りの90%の部分をちょっとだけ自分に教えてくれて、語りかけてくれて、愛してくれる存在が私のなかでは宇宙人なんです。そこから得たヒントをたどっていくと、知らなかった答えに導かれるような気がします」

ふっと湧いてきた「ここに行ってみたいな」「この人に会ってみたいな」という野生的感覚(大前さんはこれをインスピレーションとも呼ぶ)に「でも、こうだし」「ああだし」と理性をくわえずにとりあえず行動に出続けると、最終的には幸せを感じる瞬間が増えるのではないか。そう大前さんは考えるという。そうしているうちに「誰でもない、自分らしく、自分の宇宙を生きることができると思うんです」と大前さんは締めくくる。

最後に謎解き企画の参加者に向けたメッセージを求めると、「楽しんでください〜!それだけかな(笑)」と意外にもあっさりした言葉が返ってきて少し度肝を抜かれた。

ただその言葉に続けて、大前さんは、誰かの人生のなかのほんの一瞬、1分だけでも幸せを感じる時間を増やすことができたらうれしいという思いを胸に、この企画を考えてくれたことを教えてくれた。

この期間にご宿泊される方は、展示を楽しむのはもちろん、ぜひ謎解きにもご参加あれ。

■大前葉子(インスタグラム

1994年5月13日から自動書記という形で絵を描きはじめる。美術大学は落ち、アルバイトを転々としたが、いちばん長くてもアルバイトは1年と8カ月しか続かなかった。楽しくて描きはじめた絵も、「何で描けるのか」「何のために描いているのか」「自分は誰なのか」ー 葛藤や悩みの10代、20代を過ごす。絵を描くことから遠のき、結婚・出産。でも、やっぱり残る想いは「描きたい」だった。20年のブランクを経て、昨年から再スタート。絵の技術もなければ、上手いわけでもない。だけど、やっぱり楽しい!!描いて、自分の宇宙を知る。描いて、自分の感じている宇宙を表に現してみたい。

■大前葉子さん個展「オオマエヨーコ no 宇宙テン」

開催期間:7月30日(土)〜8月30日(火)| 開廊時間:7:00-22:00 | 入館料:無料 | 宿泊者以外もウェルカムです◎

■ 謎解き企画「地球ってマジおもろいな。」

開催期間:同上 | 参加可能時間:15:00-20:00 | 参加条件:誰でも参加可能 | 料金:300円