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FACES Vol. 1 佐宗喜久子さん(オレンジフローラルファーム)

エンブレムフロー箱根では生産者の顔が見える、地元の食材を選ぶこと、そして彼らのストーリーを当館のレストランではもちろん、さまざまなチャネルを通して伝えていきたいと考えています。『FACES』は、生産者の想いをお届けする連載です。記念すべき第一回目では、オレンジフローラルファームの佐宗喜久子さんに話を伺いました。オレンジフローラルファームからお送りいただいている、皮まで食べられる無農薬のレモンは、現在ドリンクメニュー(「エルダーフラワーレモン」や「レモン&蜂蜜」)としてご提供しており、2022年6月時点では、「厚切りベーコンのレモンマリネ」「静岡県産美味鶏の塩麹レモンソテー」「レモンシャーベット」にも使用しています。Emblem Flow Dining & Barをご利用の際には、ぜひレモンが使われているメニューにも注目してみてください!

レモンをまるで自分の子どものように、愛情を持って育てている女性が真鶴にいる。主に無農薬のレモンを育てている果樹園、「オレンジフローラルファーム」の佐宗喜久子(さそう・きくこ)さんである。東京生まれ東京育ちの彼女が、夫と神奈川県南西部にある真鶴に拠点を移したのは、20年ほど前のこと。移住を検討していたときの条件は「海のそば」のただひとつだったものの、今やレモンを育てることが人生の大部分を占めている。

どのようにしてレモンを育てる人生は始まったのか。なぜ無農薬で育てることにしたのか。農園を見学すると、どのような体験が味わえるのだろうか。大きく三つの質問を佐宗さんに投げかけてみた。

▲オンラインで行ったインタビュー画面に映る佐宗さん。レモンのシャツがとてもお似合いだ

ご縁があった土地が、農園のスタートだった

望んで行動にさえ移せば、東京で暮らしていてもちゃんと自然に触れることはできる。佐宗さんの場合、夫妻ともども大の海好きであることから、休暇がとれると海を求めて世界を飛び回ったという。そのせいか、終の住処を見つけるとなったとき、二人の間では「海のそば」というキーワードが自然と浮かび上がってきた。

湘南、千葉、沖縄、小笠原。海遊びをかねてさまざまな場所に足を運び、検討を重ねた。10年以上悩んだ末、ついに決めた移住先が真鶴だった。決め手となったのは、専門家と町に住む人々によりつくられた「美の基準」の内容。そこには真鶴にある暮らし方(Way of Life)の69のキーワードがあり、佐宗さんはこの美の基準に強く惹かれ、ようやく決断に至ったという。

ずっと追い求めてきた海のそばでの暮らし。見つけた土地は、相模湾が見渡せる、このうえなく見晴らしのいい古くからのみかん畑だった。

「そこで農業を取り組む決意とともに、この町に移り住むことになったんです」

当時のことを思い出すように微笑む佐宗さん。どうせなら移住の記念に何かを植えてみよう、そう思って植えたのが一本のレモンの木だった。なぜ、レモンだったのだろう。

「当時、このあたりは小田原一帯みかん農園さんだったんです。でも私たちはあとから入って来たので、同じみかんをうまく育てられる自信もなくて。どうせはじめるなら新しい果実をと思い、レモンを選んだのが農園のはじまりです。個人的にレモンが好きだったのが原点でした」

そうして2005年に誕生したのが、果樹園「オレンジフローラルファーム」である。

無農薬が生む、生命力

佐宗さんがオレンジフローラルファームをはじめてからこだわっているのは、無農薬で柑橘類を育てる、ということだ。これまで自然と触れる機会が多かった佐宗さんだからこそ無農薬という選択はとても自然に感じるが、具体的にはどのような想いで無農薬を選んだのだろう。

「私の母や主人からの影響もあり、農薬のように化学的なものは絶対地球にいい影響を与えないだろうと思ってきました。次の世代のことも考えて、人間が自然と共存し続けるためにも、薬剤を使わずに食べ物が食べられたら一番いいな、と思ったことが原点にあります。果物をつくるにしても、『自然の恵みをいただく』という謙虚な心が必要であることは、ずっと思ってきたことかもしれません」

ただ、無農薬となると木が病気にかかったり、虫との戦いに悩まされたりと難しさもある。しかし薬に頼らないからこそ発揮される自然の力があると、佐宗さんはうれしそうに話す。

「もちろん農薬を使って虫を殺しちゃうのは簡単です。でも農薬を使わずに木が元気でいられれば、大変な状況も跳ね除けて実をつけてくれることがわかってきました。

たとえば​​瀕死の重症になってしまった木も、なんとか起き上がって再生してくれたことがあります。そういう木ほど実をたくさんつけてくれたりするんです。薬に頼らず元気に育ってくれた姿を見ると、すごくうれしくなります」

▲2022年の2月、エンブレムのメンバーで農園を見学した

うだるような暑さの真夏日に草刈りをしたり、定期的に虫をとったり、木のトゲに刺されて怪我をしたり……木が元気でいるためには佐宗さんをはじめ、スタッフのみんなが、見えないところでたくさん苦労しているのも事実としてある。ところが実った果実を出荷し、お客様や取引先から「おいしかったです!」などのうれしい声が届くと、「すべて喜びに変わっちゃうんですね。すっごくうれしいんです」と佐宗さんは心から幸せそうな笑顔を浮かべながら語る。「私たちはレモンを大事に育てています。でも使ってくださる方がいて、はじめてつながれるわけですよね。みなさんとつながれることは、私たちにとってとても大きな喜びです」

自然がレモンを育てている

自然ならではのさまざまな難題と向き合いながら、たくましく育ったレモンが収穫できるのは、11月から6月までにかけて。オレンジフローラルファームは主にオーガニックのレモンを育てているが、そのほかにもレモンの二倍ほどの大きさまで成長する「フェミネロオバーレ」や、グレープフルーツやボンタンに似た「オロブロンコ」、大きいと500グラムにも(!)なる「チャンドラポメロ」がある。

オレンジフローラルファームで育つレモンの特徴として、相模湾から運ばれてくるミネラルたっぷりの海風に当たることが挙げられる。さらに巨木が生い茂る真鶴半島の森から飛んでくる枯れ葉は、素晴らしい腐葉土になるのだそう。「人がたくさん栄養をあげて育つというよりも、こうやって自然が育んでいることをお客様にお話しすると、『やっぱり自然がつくるのね』と、とてもびっくりされます」と佐宗さん。

木の枝からレモンをパチンと切り離し、鼻腔に実を近づけると、自然が育んだ香りにきっと驚かされることだろう。オレンジフローラルファームでは香りをできるだけ届けたいという思いから、飲食店をはじめとする取引先やオンラインショップからレモンを購入したお客様には、「この香りをたのしんでいただきたい」という思いを込めてお送りしているという。

▲レモンを香る、キッチンメンバーのChinatsu

レモンはえらい

摘みたての香りを身を以て体験したい。少しでもそのような好奇心が湧いたとすれば、ぜひオレンジフローラルファームでのレモン狩り(※)をおすすめしたい。そしてその際には、レモンが本来持つ力で、懸命に生きようとする姿を見てほしいと佐宗さんは語る。

※開催期間は11月中旬から5月中旬にかけて。公式サイトからご予約ください。

「農園に来てくださったら、農園の環境を含めて、レモンを見ていただきたいです。五感を使いながら、どんな風に育っているのかを知ってほしいですね。

たとえばレモンってただ木からぶらさがっているわけではなくて、すごくえらいんです。

なぜかというと、ものすごく風雨の強いときは、みんな葉っぱの裏に隠れるんです。なので、そういう日はレモンの姿が一見、見当たらないのですが、葉っぱの裏にすごくいいのが隠れていたりします。それをみなさんに伝えると『えーっ!』と大喜びされます(笑)。

レモンも生きるために自分で必死にやっているんだなぁとなんか、かわいくなっちゃいます」

▲葉裏に隠れるレモンたち

海のそばでの暮らしを望んだことをきっかけに、レモン栽培に走り出した佐宗さんの人生。農園を営むことには苦労もつきものだが、レモンがある生活は佐宗さんに心踊る瞬間を多々もたらしているように聞こえた。

「長い人生、本当に何があるかわかりません。東京生まれ東京育ちで、まさかレモンを育てるとはあまり思っていませんでした。でも人生の後半に入り、農園の中では発見と冒険の毎日で溢れています。

農業はやはりものすごく大変です。でもそれ以上に楽しいですし、生きるエネルギーの一つになっているのかなと思います」

オレンジフローラルファーム(公式サイト | オンラインショップ | Instagram

神奈川県南西部にある、真鶴半島の先端近くに位置する果樹園。農園をはじめた当初からナチュラル&オーガニックを実践し、農薬を一切使用せずにレモンやみかんの柑橘類を育てている。エンブレムフロー箱根からは車で1時間ほどの場所にある。

所在地: 〒259-0201 神奈川県足柄下郡真鶴町真鶴1147-4 | TEL: 0465-69-2239 | FAX: 0465-69-2052

営業時間: 10:30 – 15:00 / 不定休 (ご来園の際は事前にお問い合わせください)詳しいアクセス方法はこちら